なんの変哲もない日

この田舎の犬は都会で死ぬかもしらん

最近見た映画のレビュー

映画『ジェニーの記憶』、『レイチェル: 黒人と名乗った女性』、『手紙は憶えている』、『ロング・ウェイ・ホーム』・『人生スイッチ』のネタバレあり。『ジェニー』と『手紙』・『人生』はアマプラ、その他はネットフリックスで見た。

・ジェニーの記憶


ジェニーの記憶

主人公のジェニファーには13歳のとき、40代の彼氏がいたという記憶があった。しかし、ジェニファーの昔の作文を見つけた母親の追及をきっかけに記憶を辿ってみると、まぎれもない性的虐待だったと判明する(性的なシーンは子役ではなく、ボディダブルで撮影)。しかも、ジェニファーを虐待したビルは他の複数の女の子とも性的関係を持ったことがあるとわかる。なんと監督の実話。ジェニファーが、13歳の自分の写真を見て、「記憶の中ではほとんど大人だったのに、こんなに幼かったのか」と驚くシーンが印象的。「私は哀れな被害者じゃない。本当に恋愛していたんだ」と思いたい、でも現実には親への反発心や大人への憧れを性犯罪者に利用されていたという辛さ。愛があれば年の差なんて、と言うけれど、それでは済まないこともある。ジェニファーは被害者である自分が性被害を美化し、苦痛だった部分を忘れようとしていたと気づく。監督にとって、本当に苦しい体験だっただろうけど、こうして被害者の視点から性犯罪を描いたことに大きな意味があると思う。昔の自分やビルの恋人だった乗馬の先生に問いかけるシーンも斬新。

・『レイチェル: 黒人と名乗った女性』

www.netflix.com

ネットフリックスで「議論を呼ぶ」「問題を提起する」タグがついている。まさにそんなドキュメンタリー作品。あらすじを見て、「レイシストが黒人のふりをして悪事を働いて、差別を煽ったのか」とか「ブラックフェイス問題かな?」と予想したけれど事態はより複雑。白人の両親の元で、黒人のきょうだい(養子)と育ち、黒人の権利擁護団体を率いるレイチェルは、「私は生物学的には白人だけど、黒人だ」と主張する。つまり、トランスジェンダーのように心と体が異なる「トランスレイシャル」「トランスブラック」であると。彼女に対して「今まで白人の特権を享受してきて、黒人の真似だけして何がわかる」「白人だけど、黒人の苦悩がわかるから活動を支援したいと言えばいいのに」「逆に黒人が白人だと言ったって、誰も耳をかさない」といった批判が集まる。レイチェルの子供たちも度重なる中傷に疲れ、「白人だって認めればいいのに…」と嘆く。たしかに、こうした批判は理解できる。レイチェルの発言や行動には不可解な点もある。でも、レイチェルへの否定的な反応は、どこかトランスジェンダーに対するそれと似通っているところもあって。私は今までトランスジェンダーがなぜ差別や非難の対象になるのか理解できなかったけど、「もしかしたらこんな理屈なのか?」と思う節があった。「(生物学的に)白人って認めたね!」とトーク番組で騒がれるところなんて見ると、胸がざわついた。Filmarksで「MtoFトランスジェンダーフェミニストと立場が似ている」という感想もあったけどその通りだと思う。レイチェルの家庭環境の問題や団体への嫌がらせ行為が自作自演だったかということも絡んでいるし、単純じゃない。ただ、いずれにしても、ゴシップ的な消費で終わらせるのは良くないと思う。あれだけ騒動になって、彼女の手記がほとんど売れなかったというのも、この問題がちゃんとした議論に行き着いていないことを象徴している。しかし、どうなんだろう…。人種差別は、日本にいるとそんなに意識しないけれど根深い問題だし…。制作サイドは、もっと議論すべきだと促しているように感じたけど。うーん…。

・『手紙は憶えている

主人公のゼヴは、友人から手紙を渡される。それによると、ゼヴは昔アウシュヴィッツにいたユダヤ人で、オットー・ヴァリッシュという親衛隊員に家族を殺されていた。そして、妻が死んだらオットーを探し出して殺すと決めていた。友人は認知症のゼヴが忘れないようにと、ともに計画した復讐の行程を手紙に書き留めていた。そうしてゼヴは復讐の旅に出るが…。


『手紙は憶えている』予告編

事前に「どんでん返し」という感想を見てしまう致命的なミス。そうなると、「憎き親衛隊員オットーは自分だった!」オチだろうと思ったら案の定そうだった。大体、「ゼヴはヘブライ語で狼」って言うけど、これも「ヴォルフスシャンツェ」やヒトラーを連想させる。終盤にはワグナーも弾く。そもそも、いくら復讐のためでも認知症の友達に銃買わせて長旅させないだろというのが怪しい。でも、友人は身体が不自由そうでゼヴが一人で行くのも理解できるし、ゼヴの腕に囚人をカウントする数字が彫られているし、ミスリードはちゃんとある。でも「どんでん返し」って言われるとそれしかないもんね…。あと、サスペンス映画の悪役にナチスを持ってくるのもそろそろ倫理的にどうなんだろうという気も…。『ブラジルから来た少年』と似た違和感。

・『ロング・ウェイ・ホーム』

www.netflix.com

おじいちゃんと自由人な女子大生のロードムービー。そんなに長くないけど、ちょっと退屈に感じた。途中に出てくるカウボーイハット(多分)の輩が怖い。同じおじいちゃんが遠出する映画でも、『手紙を憶えている』とはずいぶん違うほのぼのぶり。

・『人生スイッチ』


映画「人生スイッチ」 予告編

6つの短編で構成されていて、キレやすい登場人物が沢山出てくる。人生スイッチというよりキレスイッチというか…。

個人的に好きなのは3つ目のパンク。主人公がのろのろ運転していた男に「田舎もんが!おせーんだよ!」と罵倒して中指を突き立てて走り去る。その後、主人公の車がパンク。後ろから追いついてきた男が反撃してくる。最後は殺し合いになって両方死ぬという話なんだけど、とにかく反撃が度を超えていて笑う。ジャルジャルのコントに似た何かを感じる。失言を謝ってもワイパーをへし折りフロントガラスを叩き割り、ガラスの上で糞尿を垂れ流すという狂気の男。

この映画、アルゼンチンでアナ雪に大差をつけて、歴代興収No. 1らしい。アルゼンチンの映画ファンはとがっているのかもしれない。