なんの変哲もない日

健忘録です

映画『希望のかなた』・『希望の灯り』感想(ネタバレあり)

希望のかなた


アキ・カウリスマキ最新作『希望のかなた』予告編

シリアの内戦から逃れてきた青年カーリドは、生き別れの妹を探して国を渡り歩き、フィンランドにたどり着く。そこで難民申請をするもあえなく却下。トルコへの移送が決まったカーリドは街へ逃げ出し、レストランの経営者ヴィクストロムに助けられる。周りの協力を得て、レストランで働きながら、ついに妹とも再会。妹が難民申請をする日、カーリドは極右らしき男に刺されたものの何とか生き延びる。木陰に座って煙草をふかすカーリドの表情は満足げだった……という話。最後は、刺されたけど致命傷でなかった、妹が生きててよかったなあということでいいのかな。それとも即死ではなかったがもう手遅れで妹には会えないということなのか。

うーん、同じ監督の『ル・アーヴルの靴みがき』も似たようなストーリーでそっちは好きだったんだけど、今回はあまりはまらなかった。期待しすぎたのか。結末がもう少しはっきりしていたほうが好みかも。あと、アキ・カウリスマキ監督らしく登場人物の「ちいさな善意」(公式サイトより)が希望を生むというのは好きなんだけど、難民は公的なシステムの枠内で救われてほしいよな……と思ってしまって。そんなこと言いだしたら『ル・アーヴル~』もそうだし、現実にはちいさな善意さえ期待できない状況があるんだろうけど。ネットで見たレビューに、「カーリドは運が良かったから助かっただけなのか」というやりきれなさについて書いたものがあった。私もそういうやりきれなさを感じた。とくに作中で難民申請やその審査、判定の過程が描かれているからなおさらそう思った。

とはいえ、作品全体に流れる雰囲気や撮り方はアキ・カウリスマキ監督らしく好きだった。登場人物がわけもなく優しくて、押しつけがましいところがない。途中の小ネタも面白いし。レストランを急に寿司屋路線にするくだりは笑った。それにしても、ネタの上にこんもりわさびを盛っていたのはジョークなのか本気なのか。あまりにも大量に盛っているのでアボカドかと思った。日本人客も誰一人文句言わずに帰っているし謎。

希望の灯り


映画『希望の灯り』予告編

旧東ドイツライプツィヒのスーパー。無口な青年クリスティアンは、優しいおじさん上司ブルーノの指導を受けながら、在庫管理の仕事をする。まもなくスーパーで働く年上の女性マリオンに恋をするが、彼女には夫がいるとわかる。それでもクリスマス(イブ?)になんとなく良い雰囲気になる。が、その後は連日そっけなくされてとまどうクリスティアン。自分が何かしたかと聞くと、マリオンから「何でも自分のことだと思わないでよ!」と怒られ打ちのめされる。翌日からマリオンは来なくなる。クリスティアンは昔の不良仲間と飲んだくれ、やさぐれる。マリオンは病気らしい、夫はDV男らしいと聞くも正確なことはわからない。クリスティアンは彼女の家に忍び込むも、本人にバレそうになり(というかバレていた)逃げ帰る。

ある日、クリスティアンは仕事の後ブルーノに家に誘われる。やんわり励まされつつ、クリスティアンは「実は昔空き巣とかやってパクられた」と打ち明けるなどして、男二人でしみじみ飲む。職場でも、何事もなかったように戻ってきたマリオンとイヌイット風の挨拶(鼻をこすりつける)なんかをしてイチャイチャしていたところ、急に「ブルーノは首を吊った」と知らされ唖然。誰も自殺の理由は知らない。孤独な暮らしで、再統一後の社会になじめていなかったからかもしれない。ショックを受けるクリスティアンだったが、ブルーノから教わったフォークリフトを乗りこなし、時々マリオンといちゃつきながら仕事に励むのだった……という話。

なんだかとてもはまった。ストーリーだけ見ると地味なんだけど、細かい好きなシーンがいくつもあって、全体の雰囲気も良かった。深夜から明け方に見たのも、作品と合っていて良かったのかも。アキ・カウリスマキ監督作品と似てるなと思ったら、トーマス・ステューバー監督はカウリスマキのファンらしい。どうりで。それにしても、30代の監督が撮ったとは思えない、75歳・巨匠みたいな穏やかな作品。

逃れられない孤独の中、ゆるやかに結ばれる交流が 優しく心に染みるドイツ映画『希望の灯り』 | LEE

とにかくクリスティアン、マリオン、ブルーノがそれぞれ魅力的だった。マリオンは『キャロル』のケイト・ブランシェットのような魅力的な笑顔で、クリスティアンが好きになるのもわかる。クリスティアンも普段は「Ja.(はい)」ぐらいしか言わない青年なのに、廃棄のケーキをこっそり取ってきてろうそくを立てて、彼女の誕生日を祝うのがかわいい。見方によっては幼稚な行動を楽しんでくれるマリオンもまた良い。

せっかくのクリスマスに、マリオンに「実は前の職場でポルトガル人に嫌な仕事を押し付けた。それを上司に怒られて、殴ってクビになった」なんて話をしてしまうクリスティアンの気持ちもなんとなくわかる。彼にとって、マリオンやブルーノは信頼できる相手で、あまり人に言いたくない暗い話を打ち明けたくなる存在だったんだと思う。何かにつけて不器用なのに、冷凍室で二人きりになったとたん「イヌイットの挨拶を知ってる?」と持ちかけるクリスティアンがまた…そこまで行ってキスはできないし。

この作品の舞台が旧東ドイツっていうのも大きなポイントなんだろうな。ブルーノも、「昔は人民公社のトラック運転手で、クビになって皆でスーパーに入った」というような話をしていたし。旧西ドイツ・東ドイツ地域では、経済的格差や文化・社会的な隔たりがあったらしいけど、そのあたりは当時を知るドイツ人にしかわからない感覚がありそう。

ちなみに、この映画を朝まで見て寝て、病院の予約をすっぽかしてしまったのは手痛かった。でも良い映画。