なんの変哲もない日

この田舎の犬は都会で死ぬかもしらん

映画『エレファント・マン』感想

ネタバレあります。とてもいい映画だった……。


映画『エレファント・マン 4K修復版』予告編

19世紀、ヴィクトリア朝のイギリス。エレファント・マンことジョン・メリックは、異様な外見をしていることから、見世物小屋を仕切るバイツに連れられて巡業している。解剖学を教える医師トリーヴズはエレファント・マンに興味を抱く。バイツがメリックをひどく虐待したのをきっかけに、トリーヴズはメリックを病院で保護することに。
知能が低いと思われていたメリックだったが、実は恐怖のあまり話せなかっただけで、聖書を愛読する優しい人間だとわかる。メリックは、トリーヴズ夫妻や女優のケンドール夫人、病院の婦長たちと交流して打ち解けていく。
やがて女王の親書のおかげでメリックは病院に住むことが認められ、幸せいっぱい……かと思いきや、メリックはバイツによって再び見世物小屋に連れ戻される。しかし見世物小屋の仲間に助けられて逃亡し、病院に戻る。そのころには、メリックはすでに衰弱して長くはもたない状態になっていた。初めての観劇を楽しんだあと、メリックは病室のベッドでそっと永遠の眠りにつくのだった……という話。

この映画はジョゼフ・メリックという実在の人物をモデルにしているらしく、wikiを読んでみたら思ったより史実に沿っていて驚いた。なんというか、化け物を化け物にするのは周りの人間なのかもしれないなと思わされる。映画の途中まではほとんど喋れないメリックが周りの人と心を通わせていくのが良かった。
ケンドール夫人がメリックを訪問してから、上流階級の間でメリックに会うのが流行る→「私は見世物小屋の男と大差ないのかも」と悩むトリーヴズのシーンも印象深い。話すようになってからのメリックは非常に紳士的で身だしなみにも気を使っていて、「見た目で差別を受けてきたからこそ、良い人に思われたいんだろうな」と少し切なくなった。
私は身内に障害者がいるのだけど、24時間テレビなどで「障害はあるけど、ある分野では優れている(or人柄がよいor努力家)」人ばかりが取り上げられるのに違和感があって。障害者の中にも、健常者と同じように良い人悪い人がいるのは当たり前なのに、「障害を補う長所」を強要されているみたいで不快だなと思う。そして、障害があって、かつ何か悪いことをした人は必要以上に非難されるんだろうなとも。
とはいえ、ヴィクトリア朝のイギリスという時代背景から考えても、メリックは誰かの庇護なしには生きていけない。そこで助けを差し伸べた医師や病院の人たちがメリックを尊重して、理解しようとしてくれて良かった。「愛されているから自分を発見できた」と言うメリックに、「君だって私にとてもよくしてくれた。ありがとう」って返すトリーヴズがもう……。後半でずっとメリックがトリーヴズに「マイフレンド」と呼びかけているのも印象的。大声で感謝を伝え合って泣くような感じではなく、二人の関係は温かいけどどこかさらっとしていて好き。