なんの変哲もない日

この田舎の犬は都会で死ぬかもしらん

映画『心の傷を癒すということ 劇場版』感想

先日近くのミニシアターで上映していた『心の傷を癒すということ 劇場版』を見た。ネタバレ(というのか、ドキュメンタリー系の映画だけど)あります。


【公式】『心の傷を癒すということ』1.29公開/本予告

この映画は、阪神大震災の被災者のケアにあたった精神科医安克昌さんの半生を描いた作品。もともとNHKスペシャルドラマだったのを映画にしたらしく、色んな要素を詰め込んだ感はある。でも、逆に言うと内容は充実していて見ごたえがある。

作品のなかでは、90年代当時の精神医療に対する社会の見方がうかがい知れる。安先生が医学部に入った後、精神医学を専門にすると言ったら激怒されたり、震災の避難所で「精神科のお医者さんにお世話になっていると噂になったら困る」と被災者から避けられたりする。本人も、震災で次々重傷者が運ばれてくるなかで、心のケアのために来ているとはいえ、何もできないことに葛藤を覚える。今も昔よりは心のケアの重要性が知られているとはいえ、心の病気は体の病気よりも軽視されがちな状況はある。心の不調の場合は、当の本人も「このくらい平気」「気持ちの問題」と無理して悪化するケースも多いんだろうなあとつくづく感じた。そうした逆境にあっても、安先生は恩師の励ましなどを糧にして、心のケアに取り組んでいて、その真摯な姿勢に感動した。「弱いことは恥ずかしくない、弱いから人が傷ついているのに気づける」「心のケアとは、誰もひとりぼっちにしないこと」というようなセリフがあり、印象に残った。

そのほか細々とした点について話すと、まず柄本佑さんを始めキャストが皆はまり役で良かった。序盤の濱田岳さん・柄本佑さんの学ラン姿にはかなり無理があったし、森山直太朗さんも大学生には見えなかったけど、だんだん慣れてくる不思議。濱田岳さんも、一瞬で「陽気でがさつに見えるけど、性格は良い主人公の親友」とわかる安心感が凄い。お互いの悩みや秘密を打ち明けあう公園のシーンも良かった。あと安先生の大学時代の一人暮らしの狭くて散らかった部屋は、個人的にロマンを感じた。こたつ付きの雀卓の横にすぐ布団があって、山のように本が積んであるほこりっぽい部屋。私は鼻炎持ちなのもあって、そういう散らかし方はできなかったし古本も積めなかったからちょっとあこがれる。というのもあるし、ああいう汚い部屋に文句言いながら居座って無理に泊まろうとする親友欲しかったな~とか。今でも男子大学生や友達が多い人ならそういう生活している人もいるのかな。それに加えて、大学に入って親友とジャズ始めて、なじみのバーで演奏しているのもロマンある。実話なので良かったけど、フィクションだったらこのやろ~って思うような素敵な男子大学生ライフだった。こんな感じの柄本佑さん(医大生)いたらモテると思うけど、女の子と遊びちらかして、みたいな陳腐な青春描写がないのも好き。

それと、奥さんとの出会いも夢があった。映画館で見知らぬ女性と「~のシーンの台詞聞こえました?」「僕も電車の音で聞こえませんでした」みたいなやりとりをして、また同じ映画を見に行って再会するっていうのは…しかもその映画が『東京物語』というのも多分実話なんだろうけど、良い。安先生が「諦めが悪い性格なのはうらやましいです。僕なんて何でもどうでもいいと思っちゃって」とぼやいて、終子さん(後の奥さん)が「ほんとにどうでもいいと思ってる人は『東京物語』2回見ませんよ」って言ってくれるのも…夢かな…それは好きになる。本筋ではないけど、このシーンはかなり好きだし励まされるような気分になった。奥さん役の尾野真千子さんは、こんないい奥さんいるのかなって思うぐらい素敵。

全体的に良かったので、安先生本人の著作も読んでみたい。

心の傷を癒すということ (角川ソフィア文庫)
 

今年に入ってから全然映画を見ていなかったので、多分この作品が2021年最初にちゃんと見た映画かな。他に今気になっているのは、Love, Weddings & Other Disastersという2020年に公開された作品。ジェレミー・アイアンズダイアン・キートンが出ているラブコメ。でも予告を見るかぎり、正直あんまり面白くなさそうな…。ロマンチックで安っぽい邦題をつけられて日本で公開されそうな…。でも見たい。

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