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この田舎の犬は都会で死ぬかもしらん

宇多田ヒカル「ULTRA BLUE」レビュー

久しぶりの更新。年度末で忙しかったなら恰好がつくのだけど、実は音楽やら映画やら漫画やらアイドルやら、趣味に没頭していただけです。ともあれ、大好きなアルバム「ULTRA BLUE」(2006年)について書いてみる。ちなみにずいぶん前に「初恋」のレビューもしていた。私は何の楽器が鳴っているのかもわからないほど素人なので、以下抽象的な表現が続きます。

komeuso.hateblo.jp

0. 「ULTRA BLUE」について

宇多田ヒカル「普通に好き」から「大好き」になったのは、たしか高校のとき「ULTRA BLUE」にはまってからだった。私が高校生ぐらいのときは、社会現象的な「宇多田ヒカルブーム」は落ち着いていたころ。多分HEART STATION期。もちろん人気はあるけど、高校生の間で流行りのアーティストではなかった。そんなときに、「ULTRA BLUE」を聴いてこれだ! と思った覚えがある。友達がコアな宇多田ヒカルファンで、「ULTRA BLUEの話できる人ってなかなかいないよねうれしい!」って盛り上がった思い出がある。ULTRA BLUEあたりのアルバムってそれまでに比べると売れてはいないけど、個人的にとても好き。ちなみに、その前のUtada名義で出している「EXODUS」も結構好き。

そんな思い入れのある「ULTRA BLUE」。アルバムのアートワークは幻想的で、歌詞カードを確認するとやっぱり当時の夫紀里谷和明氏が担当している。トラック1~3はこの時期を象徴する神秘的な曲、4、5はアルバムらしい日常系の曲、6はしっかりしたバラード、7は1~3と雰囲気が近い曲、8はコラボ曲でいつもと違うテイスト、9~11はアルバムの終盤らしいしっとりしたムードの曲、12のインスト…で終わるかと思いきや13曲目にまた大物の曲が来て終わる。全体的にインパクトの強い曲が多い印象。そして毎度のことながら宇多田ヒカル以外どうやって歌うのっていう難しい曲しかない。

以下、曲ごとのレビューです。

1. This Is Love

大好きな曲。この曲とBLUEはとくに宇多田ヒカルらしい。Laughter in the darkというツアータイトルがあったけど、宇多田ヒカルらしさは「希望と絶望の共存」と「文学的な表現と日常的な言葉の混在」にあると思っている。あとは無常観か。基本的に相反するものが一つの曲のなかにあって、その揺らぎや率直さが魅力的。

とくに「冷たい言葉と暖かいキスあげるよ」と「痛めつけなくてもこの身はいつか滅びるものだから甘えてなんぼ」という歌詞が好き。


宇多田ヒカル - This Is Love (Live Ver.)

2. Keep Tryin'

サウンドは幻想的なのに歌詞は日常系というギャップのある曲。後半の展開がとても良い。「どんぶらこっこ世の中浮き沈みが激しいなあ どんな時でも価値が変わらないのはただあなた」からの流れが心地よい。MVも凝っていて素敵。


宇多田ヒカル - Keep Tryin'

3. BLUE

この曲は最近たくさん聴いています。私のなかで、好きな宇多田ヒカルの曲ベスト5には間違いなく入る。サビの歌詞は直球かつ陰鬱なのに、曲全体は朝の静かな海みたいなイメージ。イントロから美しい。サビでは「栄光なんてほしくない」「恋愛なんてしたくない」と言いながら、「もう一度信じたいね 恨みっこなしで 遅かれ早かれ光は届くぜ」とも歌う。矛盾しているようで、どっちも本当なんだろうな。最後の「砂漠の夜明けがまぶたに映る 全然涙こぼれない ブルーになってみただけ」がまた宇多田ヒカルだな~~~~! ってぐっと来る。One Last Kissの終わり方(「吹いていった風の後を追いかけた眩しい午後」)に通ずるものがある。休止前のヒカルちゃんの歌詞はなんとなく強がっている部分もある気がする。

4. 日曜の朝

まったりして心地よい曲。本当に日曜の朝みたい。「仕事なんてやめちゃって 君と平日午後水族館に行きたいなあ」という歌詞が大好き。平日午後なのがポイント。なんとなく切なく聴こえるのは、「なぞなぞは解けないまま ずっとずっと魅力的だった」と過去形だからなのか。

5. Making Love

歌詞カードの文字が踊っているのが軽妙な曲調と合っている。遠くに引っ越す親友に話しかけるような曲。サビの歌声が美しい。高校のときにたくさん聴いた覚えがある。

6. 誰かの願いが叶うころ

キャシャーンの映画を思い出す、悲壮感漂う曲。宇多田ヒカルの曲では、こういう正統派のバラードは珍しいように思う。


宇多田ヒカル - 誰かの願いが叶うころ

7. COLORS

この曲も昔たくさん聴いていた。曲も歌詞も幻想的。サビが多くて満足感がある。最後の「もう自分には~」からの流れが好き。「今の私はあなたの知らない色」で終わるのがかっこいい。


宇多田ヒカル - COLORS

8. One Night Magic feat. Yamada Masashi

大人の遊びの恋がテーマかな。曲も遊び心がある軽快な感じ。歌詞を読みながら聴くと「いや友達の恋人と踊ったらいかんやろ」と我に返るけど、楽しい曲。「どんな歌彼女に車の中で聴かすの? あげたい、君の知らないCD一枚」という歌詞がむちゃくちゃ怖い。好き。

9. 海路

詩のような文学的な歌詞に静かな曲調。こういうしっとりした短めの曲がオリジナルアルバムの醍醐味だと思う。歌詞が少ないぶん、一つ一つのフレーズがどういう意味なのかなと考えられる余白がある。「今日という一日も 最初から決まってたことなのか」。

10. WINGS

去年か一昨年ごろよく聴いていた。落ち込んでいるときでもすっと入ってくる優しい曲。でも、結構核心に触れるようなフレーズ(「大好きな人を疑うのはなぜ」「簡単に慣れてしまうのはなぜ」「あまえ方だって中途半端 それこそ甘えかな」)がある。

11. Be My Last

この曲は、発売当初はそんなに聴いていなかったけどじわじわ好きになった。「母さんどうして育てたものまで 自分で壊さなきゃならない日がくるの?」で始まるのも凄いけど、「慣れない同士でよく頑張ったね 間違った恋をしたけど間違いではなかった」とか「いつか結ばれるより今夜一時間会いたい」とか印象的なフレーズが多い。それにしても、私は今夜一時間会うよりいつか結ばれたい派だ。


宇多田ヒカル - Be My Last

12. Eclipse (Interlude)

インスト。なんとなくglobeのセカンドアルバムに入っているoverdoseのような…という共感を得られない例え。こういうつなぎのインストがあるアルバムが好きです。

13. Passion

もう終わりかあと思っているところにこんな最高の曲が来たらとまどう。最高。「ずっと前に好きだった人」からの歌詞と曲の展開がとくに好き。「年賀状は写真付きかな わたしたちに出来なかったことをとても懐かしく思うよ」という歌詞に強い情念を感じる。情熱を通り越して情念。英語バージョンのSanctuaryも好き。


宇多田ヒカル - Passion ~single version~