なんの変哲もない日

この田舎の犬は都会で死ぬかもしらん

映画『レディ・バード』・『否定と肯定』感想

2日ぶりの更新。映画『レディ・バード』と『否定と肯定』のネタバレあります。※『レディ・バード』の感想追記しました(1/10)


映画『レディ・バード』予告

20センチュリー・ウーマン』で赤髪のクールなお姉さんを演じていた、グレタ・ガーウィグの自伝的作品。17歳のクリスティン(自称レディ・バード)は、カトリック系の保守的な学校にも口うるさいママにも故郷の田舎くささにもうんざりで、とにかく反抗的。スクールカースト上位の友達や彼氏と親しくするも、嘘つかれたりバカにされたり。色々あったけど、前からの親友ジュリーやママとも仲直り。都会の大学に進学してみて、ちょっと故郷の良さや家族の愛情にも気づいたよ…というような話。
短めの映画だけど、家族や友達、恋愛、性、自分自身と色んな内容が詰め込まれていて、ちょっと散漫な印象。苦手なタイプのキャラが多くてストレスも感じた。ママや主人公の空回りぶりはともかく、彼氏のカイルは本当に…なんなの…と思わされた。
でも、同性愛者の自覚が芽生えて悩む元彼(ダニー)を励ますシーンや、カイルを振り切ってジュリーとプロムを楽しむシーンは好きだった。
プロムはアメリカのティーン映画でよく出てくるけど、いつも怖い。相手を選ぶ過程も含め、スクールカーストを表面化させる残酷なイベントのイメージしかない。主人公が、前後のトラブルなくプロムに参加できた映画ってあるのかな。
それと、面白いのはカトリック系の学校にうんざりしているらしいクリスティンの心を和ませるのが、なんだかんだで学校のシスターだったこと。シスターの厳しい風紀検査に腹を立てたクリスティンは、シスターの車に「イエス様と新婚」と落書きして飾り立てる。そんな暴挙に対してシスターは「罰しない。面白かったし。でも私は新婚じゃなくて、イエス様と結婚して40年よ」なんてジョークで返す。宗教的な信仰心って日本ではあんまり身近に感じづらいけど、海外では日常に寄り添うものなのかもしれない。日本でも熱心な人はいるけども。


否定と肯定(予告編)

ホロコースト否定論者デヴィッド・アーヴィングと、彼を批判した研究者デボラ・リップシュタットの裁判を描いた映画。アーヴィングはリップシュタットを名誉毀損で訴える。リップシュタットは、「アーヴィングが反ユダヤ的な思想に基づいて、意図的に史実を改ざんした」という批判が正当だと証明しなければならなくなる。名誉毀損の裁判だけれど、負ければ「ホロコースト否定論は正しい」という印象を与えかねない。映画を見ればわかるように、名誉毀損と認められることとホロコーストがなかったと認められることは本来別問題だけど。もしアーヴィングが勝っていたら、「ホロコースト否定論の勝利」だと喧伝したに違いない。結局、他の学者や弁護団の協力を得て、リップシュタット側が勝訴。
裁判のシーンはかなり詳しく描かれているし、最後の記者会見も良い。「表現の自由を妨げる判決だという意見があるけれど違う。悪用から自由を守った」「多種多様な意見があっていいけれど、ウソと説明責任の放棄は許されない」という話は、ホロコースト以外にも通じる。難しい専門書より単純明快なデマのほうがわかりやすくて広まりやすいのかもしれない。そういう意味でも、歴史の捏造に関する裁判が映画化されたのは良かったと思う。