なんの変哲もない日

この田舎の犬は都会で死ぬかもしらん

映画『鍵』(1959年)感想

なんだかんだ言いながら、谷崎潤一郎原作の『鍵』を見た。ネタバレあり。


初老の男性剣持氏は、ある日妻と娘の婚約者・木村が仲睦まじく談笑しているのに嫉妬。それと同時に「この嫉妬、若返るわ〜」とばかりに悦に入る。癖になった剣持氏は、事あるごとに妻のヌード写真を木村に見せつけたり、木村と妻を二人きりにして不倫させたりして楽しむ。連日の興奮がたたり、剣持氏は脳溢血(たぶん)で死ぬ。葬儀の後、すべてを知っていた剣持の娘とし子は、木村と母を毒殺しようとするが手違いで失敗。最後はこれまたすべてを知っていた家政婦のはなさんが3人に農薬を盛り毒殺する。警察は「私が殺した」というはなの供述を一笑し、「貞淑な剣持夫人と、それに同情した家族の後追い自殺だろう」と決め込むのであった……という話。原作では夫婦の日記がメインになっているので、かなり内容は違うけど面白かった。
予告を見ればわかるように、とにかく仲代達矢さん演じる木村の不気味さが良かった。終盤の「この家お金残ってなさそうだし、有名人の旦那さんが死んだら価値ないなあ。奥さんはきれいだけど、とし子さんは論外だし、貧乏くじを引いたなあ」といった独白が軽薄すぎて笑う。
とはいえ、剣持家の娘・とし子さんが可哀相でなかなか乗りづらかった。親にやたら容姿を貶され、婚約者には「論外」と言われ、父親は母親と婚約者の不倫に興奮している。最初、婚約者の木村に冷たくしていたからとし子のほうも愛情はないのかなと思いきや、結構積極的なキスシーンもあるし。木村に冷たくしていたのは、容姿端麗な母親への劣等感や、木村にひかれているけど相手は自分を好いていないという自覚からなのかな。同情を引く役どころ。父親の「若い娘が賢いと言われるのは、器量が悪いというのと同じこと」といった台詞もザ・1959年だった。
でも仲代さんの素晴らしさと、きびきびした看護師さん、ラストに皆死ぬ妙な爽快感、家政婦さんの存在感、夫が死んだときの夫人の笑顔など見どころは沢山あった。食卓に3人が突っ伏すシーンはなかなか圧巻。