なんの変哲もない日

この田舎の犬は都会で死ぬかもしらん

現実のための演技

※途中、映画「太陽の下で―真実の北朝鮮」と「将軍様、あなたのために映画を撮ります」のネタバレあり

今日、地元の図書館に10年以上ぶりに行ってみた。なんでもない小さな図書館で、バスに乗って遠くの図書館に行くことを覚えてからは全然行かなくなった。まだあるのかな、なんて思っていたけどそのままだった。匂いもそのままで、よくその図書館に居座って漫画を読んでいたのを思い出した。

今週は北朝鮮関係のドキュメンタリーをふたつ見た。かなり重い内容だった……。
「太陽の下で―真実の北朝鮮」は、ロシアの映画監督が北朝鮮での撮影許可を得てドキュメンタリーを撮りに行ったが、実際には当局がガチガチに台本を作って待ちかまえていたという話。監督は、北朝鮮当局の担当者が主人公のリ・ジンミちゃん、その両親、その他キャストに演技指導する様子も隠し撮りすることに成功。
幼いのに何度も「日常」シーンを撮らされるジンミちゃんはどんな気持ちだったんだろうか……。ジンミちゃんの同級生が踊りの練習中に怪我をし(たていで)、クラスメイトや先生とお見舞いに行く(台本あり)場面には驚いた。
それと、工場で何度も演技指導をされ、だるそうな顔をする女性たち。出演者全員のその後が心配になる映画である。ネットで調べてみたら、主人公のジンミちゃんらしき女の子が、式典に出ていたとか。その写真も上がっていたけれど、1枚だけで本人かどうか判断がつかなかった。無事だといいけど……。しかし、「撮影でだるそうにしていた」だけで処罰するなら何人処罰しても足りないくらい、市民のやらされてる感が強く、体制としてもはや限界なのかなとも思う。

もうひとつの「将軍様、あなたのために映画を撮ります」は、金正日時代(金日成はまだ生きていたが、実権は金正日にあった)の話。韓国の女優チェ・ユニと、彼女の元夫で映画監督のシン・サンオク北朝鮮に拉致され、金正日の命で映画を撮る。二人は表向き北朝鮮の思想に洗脳されたようにふるまって機会をうかがい、亡命に成功する。
二人、とくに監督のシンさんは自発的に北朝鮮に亡命したと信じられていて、韓国にいたお子さんたちは「裏切り者の子」という目で見られ、辛い思いをしたそう。

驚いたのは、金正日のあまりの身勝手さ。
二人は別々に拉致され、再会できたのは5年も経ってからだった。チェさんは金正日の誕生日会に呼ばれ、そこでサプライズ的にシンさんと再会する。金正日は「大成功だ!」と得意げだったそう。
録音テープに残っている会話でも、金正日は「連れてこいって行ったら、部下がミスして囚人のような扱いで君たちを連れてきた。ゴメンゴメン」といった口振りだし、人の人生をなんだと思ってるんだよ……という気軽さである。
悪意というよりは、自分以外の人を「しもじもの者」として思い通りに動かせて当たり前だと考えているような怖さがあった。

インタビューの中で、チェさんが「人間の一生は演じるためのものじゃないでしょ。演技はフィクションのためのもの。でも現実のための演技もある」と、北朝鮮で人形のようにふるまった過去を語っていた。生きるための演技、感情労働を1日中やること。「太陽の下で」の内容とも通じる部分があり、印象的だった。