なんの変哲もない日

この田舎の犬は都会で死ぬかもしらん

映画『ヴィンセントが教えてくれたこと』感想

ネタバレあり。

ヴィンセントが教えてくれたこと 予告篇
ヴィンセントは貧乏で女と酒とギャンブルが好きな偏屈おじいさん。ある日、隣に浮気夫から逃げてきたマギーとその息子オリヴァーが引っ越してくる。マギーは病院勤めで忙しいため、成り行きで渋々ヴィンセントに子守を頼むことに。ヴィンセントは学校でいじめられたオリヴァーに喧嘩の仕方を教えたり、競馬場に連れて行ったりしながらオリヴァーと仲良くなっていく。
ある日ヴィンセントは脳卒中で倒れてしまう。認知症介護施設にいる妻の滞在費用を滞納していたため、必死にお金をかき集めている最中のことだった。オリヴァーやマギー、馴染みの売春婦ダカのサポートもあり、ヴィンセントはリハビリを乗り越えて退院。しかし、帰宅して溜まっていた留守電を聞いてみると、妻の訃報が何件も入っていた。慌てて施設に向かったが、妻はすでに遺灰になっていた。
その頃、マギーは法廷で夫と親権を争っていた。ヴィンセントがオリヴァーに悪い影響を与えたと判断されたのか、共同親権という決定が下される。マギーがヴィンセントに悪態をつくと、やさぐれているヴィンセントは負けじと暴言を吐いて更に怒らせてしまう。オリヴァーには「安全な」新しいシッターがつき、ヴィンセントとは疎遠になる。
最後の場面は、学校での「私にとっての聖人」についての発表会。オリヴァーはヴィンセントが捨ててしまった過去の写真を拾い集め、彼を聖人として紹介する。皆がオリヴァーとヴィンセントに拍手喝采、めでたしめでたし……という話。

途中までは『菊次郎の夏』みたいだな、と思っていたけど最後まで見たら全然違った。最後の場面はいかにもアメリカ映画というか、「また発表会で泣かせる展開かよ〜」と思ったけど、オリヴァーのスピーチの内容は良かった。
この作品でとくに好きなのは、ヴィンセントの駄目さ加減がリアルなところや、所々シビアな事情が入ってくるところ。ヴィンセントは自分を忘れてしまった妻のところへ足繁く訪問して、医者のふりをして会い続ける。妻のためにと快適な介護施設に入所させている。妻のことを心から想っているのに、私生活は破綻していて借金まみれ。多分節制すれば妻の施設代は払えるだろうけど、それができない。周囲から見れば目的と行動がちぐはぐな「どうしようもなさ」がリアルだな〜と感じた。私にもそういう「どうしようもなさ」があるので、ついつい共感してしまった。ちなみに妻サンディ役のドナ・ミッチェルがチャーミングで素敵だった。笑顔のなんとも言えない可憐さ。少し草刈民代さんに似ているかも。
それに、マギーが弁護士の夫との裁判を有利に進められず、共同親権になるところ。マギーはオリヴァーを大事に思っているけれど、お金の問題があってかなりハードに働く必要がある。その辺りの心情までは法廷では十分に考慮してもらえなかったのかもしれないし、なかなか厳しい展開。それでも、オリヴァーが実は養子であることが大きな問題にならず、母子関係が良好なところがとても良かった。オリヴァーが「自分は養子なんだ」と知って荒れる、みたいなありがちな展開に陥らないのが良い。逆に言えば、映画を通してオリヴァーが良い子すぎないか、とは思うのだけど。
エンディングのヴィンセントの歌も味があって好きだった。