なんの変哲もない日

この田舎の犬は都会で死ぬかもしらん

映画『生きてるだけで、愛。』感想

映画『生きてるだけで、愛。』を見た。普段なら避ける「良さそうだけどつらそう」な邦画だけど、何が起こるかわからない緊張感があってあっという間に見終わった。ネタバレあります。
うつ状態の詳しい描写があるので注意。


『生きてるだけで、愛。』予告 11月9日(金)公開

主人公の寧子は、躁うつ病で過眠症。週刊誌の編集部で働く恋人、津奈木の家に居候している。寧子は働かずに引きこもっていた。そんなある日津奈木の元彼女がやって来て、「より戻したいから出ていけ。お金がないならすぐ働け」と迫られ、強制的にバイトをすることに。働き始めたカフェバーの店主夫婦と元引きこもりの先輩は優しい。何度も無断欠勤しても、クビにせず待ってくれる。今度こそ、とばかりに一生懸命働く寧子。バイト後の飲み会では、店主夫婦に「私は本当に大丈夫でしょうか」と聞く。店主夫婦は「大丈夫になるよ」「家族みたいなもんでしょ」と言う。しかし、会話の齟齬などから相手との相違を感じた寧子は耐えられなくなり、トイレを破壊して店を飛び出す。服を脱ぎながら走る寧子と、それを追いかける津奈木。寧子と津奈木は正直に感情を吐露しあい、少しだけ「わかりあえた」という気分で家に帰るのであった…。という話。
※あらすじを書く前に、↓の記事を読んだので少し文章が似てしまった…と書いたあとに気づいた。大好きなブログなのでむしろこちらを読んでほしい。
生きてるだけで、愛。(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて
私は何年も前、情緒不安定になり、バイトもせず大学に行くのもギリギリなぐらい辛く、どん底の1年を過ごしたことがある。一緒に住んでいた人にもしばしば当たり散らし、依存し、そのときは病院にも行かなかった。寧子の支離滅裂な行動や過度な自虐と他人への攻撃を行ったり来たりする状態は、昔の自分を見るようで胸に刺さった。あんまり映画としてどうだったか判断しにくい。同じような経験がある人には突き刺さる映画だと思う。
あと、津奈木の元カノ安堂さんの容赦ない罵倒も辛かった…。彼女は精神的にギリギリで、元彼のストーカーをやっているけれどそれ以外は世間体を保っている、働いているという自負がある。だからはたから見て明らかに異様で、「やる気がない」寧子に腹を立てる。「死んじゃえばいい」なんて言う。
とくに印象的だったのは、寧子が一見すると些細なことの積み重ねで、心が折れてしまうシーン。あるある、と思いながら見た。
家で津奈木のために料理を作ろうと意気込んだのに、材料が売り切れてたりブレーカーが落ちたり、ライターの火がつかなかったりする。それだけなのに、ブレーカーを戻す気力はなくて、彼女は泣きくずれる。
バイト先のトイレで耐えきれなくなるシーンは個人的に一番引き込まれた。仕事の後に皆でご飯を食べて、店主夫婦に励まされて、寧子はちょっとお酒も入って饒舌になる。でも少し話し出すと、会話はうまく噛み合わない。「酔っ払ったか?」と気遣われる。トイレの中で、他の人が「私あの子と働くのきついかも笑」「そんなこと言うなよ、お前だって昔引きこもりだっただろ」と話しているのを聞く。それは、寧子を本気で嫌がるような陰口ではない。せいぜいお酒が入って言ってしまった軽口くらい。でも、寧子は津奈木に「もう駄目みたい。いつも見破られちゃうんだよね」と泣きながら話す。スマホが壊れる。心配した店主夫婦がトイレの外でずっと話しかけてくる。そこで感情が爆発する。
この「見破られる」「見抜かれる」という寧子の言葉は、感覚としてよくわかる。自分が「普通の人たち」とは決定的に違う、そしてそれに気づかれるのが怖い(がいつもバレる)という心情を的確に表している感じがした。実際には「普通の人」なんてほとんどいないけど、自分以外の人が「うまくやってる」ように見えるんだろう。
ネットで見てたら、色んな感想があった。「やっぱ鬱病ってウザくて嫌いだわ。時間無駄にした」という感想もあった。そう書けてしまう人生について少し考えた。