なんの変哲もない日

この田舎の犬は都会で死ぬかもしらん

宇多田ヒカル「初恋」レビュー

アルバム「初恋」大好きなので、唐突にレビューする。レビューって、このありあまる愛を書ききれる自信ない…ってためらっていたけど、また書きたくなったら何度でもレビューすればいいよな。と思ったので書くのである(土佐日記感) 。

 

1. Play A Love Song

歌い出しから引き込まれる。サントリーのCMが雪景色だったこともあって、冬のイメージ。曲調が軽やかで声もはねるようで優しく、心地良い。

「他の人がどうなのか僕は知らないけど 僕の言葉の裏に他意などないよ」

「友達の心配や生い立ちのトラウマはまだ続く僕たちの歴史のほんの注釈」

「僕の親がいつからああなのか知らないけど 君と僕はこれからも成長するよ」

という歌詞がとくに好き。たしかNHKのSONGSで、本人が自分の曲は、家で一人でヘッドフォンつけて聴いてる人に話しかけてる感覚だと話していた。この曲はまさにそんな感じ。

 

2. あなた

映画「DESTINY 鎌倉ものがたり」の主題歌。脱線するけど、この映画、漫画の設定そのまんま実写化すると違和感が否めないと思いながら見た。原作はあのなんとも言えないレトロさが良いけど、今時、作家の年下の奥さんがエプロン着てほうきで掃除してるみたいな描写は…。でも主演の二人はすてきだった。そして、エンディングで「あなた」が流れるとそれだけで名作を観た気になるので凄い。偉大。

後半、「なんと言われようとあなたの行く末を案じてやまない 終わりのない苦しみを甘受しDarling 旅を続けよう あなた以外帰る場所は天上天下どこにもない」のクライマックス感。

 

3. 初恋

連ドラにこの歌は壮大すぎるのでは…大丈夫なのかな…という要らない心配をするほど重厚感のある曲。この曲も、後半のたたみかけるような盛り上げ方がドラマチック。

 

4. 誓い

曲はもちろん、歌詞がとても好き。

「今日という日は嘘偽りのない 永遠の誓い日和だよ きれいな花も証人もいらない 同じ色の指輪をしよう」「約束はもうしない そんなの誰かを喜ばすためのもの」

当時は結婚したばかりだったはずなのに、思い切った歌詞だなとも思った。突然離婚のニュースもあって驚いた覚えがある。

フリーペーパーの『うたマガ VOL.7』によると、この曲を作って、「大空で抱きしめて」「Forevermore」「あなた」も立て続けに作れたらしい。どうなってるんだ。才能。

 

5. Forevermore

1~4曲目が怖いくらい重い歌詞なのに、さらに重い歌詞が来て、私にとっては喜びしかない。とくにこの曲は、初めて聴いてすぐ気に入った曲。曲が終わっても頭の中でリフレインするような余韻があって好き。

 

6. Too Proud featuring Jevon

1~5曲目まで前菜なしでメインディッシュが出されて、その後スープが出てきた感覚。ただ歌詞の内容はセックスレスカップルで、わりと深刻。

「おやすみの後 向けられる背を見て思い出す動物園の動物」という初めの歌詞にユーモアと皮肉が感じられて格好いい。曲調もほどよく抑制があって好き。ライブで聴いた日本語ラップver.も良かったなあ。

宇多田ヒカルは、セックスレスが海外よりも日本で多い理由について、「拒絶されることへの恐れ」「一度挫折したらもう終わり」という空気感の表出じゃないかと話している(これもうたマガより)。そういう考え方も含めて、興味深い曲。

 

7. Good Night

とにかく好き…(告白)。歌詞がとても好きなんだけれど、実は「Good bye」「Good Night」とFu~~って歌ってる部分がほとんど。少ない歌詞でこれだけ心を揺さぶられるんだと思う。

「ああ無防備にまぶた閉じるのに 夢の中に誰も招待しない君」という歌詞が一番好き。片想いしていたけど、想いに応えてくれないまま離れていった人を回想する曲と解釈して聴いてる。相手が完全に心を開いてくれなかったから、「謎解きは終わらない」んだろうなあとか。夜寝る前に急にその人を思い出して、「Good bye」と「Good Night」を心の中で繰り返しているイメージ。

相手が離れていくときは「僕は思い出じゃない さよならなんて大嫌い」と思ったけど、結局一人残されてしまった。そういうストーリーだと思って聴くと、最後の「この頃の僕を語らせておくれよ この頃の僕を…」にぐっと来る。

 

8. パクチーの唄

こーりゃなんだ、コリアンダー!!

最初にひかるちゃんの(恐れ多くもちゃん付けする)お子さんの声が入っているらしい。やっと箸休めというか、和む曲。ぼくはくま的な…。「学びて時にこれを習う」とか、宇多田ヒカルの曲にはたまに古典からの引用が入るけれど、自然なのが凄い。

ぱくちーぱくぱく、ぱくちーぱくぱく…。

 

9. 残り香

タイトルと曲と歌詞がぴったり合ってる。しかもアルバムの後半に入っているのもちょうど良い。

「壊れるはずがないものでも壊れることがあると知ったのは つい先ほど」という冒頭の歌詞にはっとする。

追記(6/29): 同じ曲の中で、「証明されてないものでも信じてみようと思ったのは知らない街の小さな夜が終わる頃」と希望めいた歌詞が出てくる所がいかにも宇多田ヒカルという印象。

でもこれは、過去にそう信じた→しかし壊れてしまった、と振り返る歌なのかな。SONGSで本人が話していたと思うけど、子供時代に周りの状況がころころ変わるのが当たり前だった環境が反映されてるのか。彼女の歌詞は、絶望して不信一色じゃなくて、希望を見いだしたいし何かを信じたいという気持ちが感じられるようで好き。

 

10. 大空で抱きしめて

これはたしか、アルバムが発売される前に我慢できなくて先に買ったような…というかこのアルバムに入っているシングルは基本的にそうした記憶が…。

始まりは明るいし、直接的に悲しい言葉が入っているわけでもないのに、切ない。

「もし夢の中でしか会えないなら朝まで私を抱きしめて」から「もし夢の中でしか会えないなら天翔る星よ消えないで」になるのが凄いなあ。夢覚めるな、朝来るなっていう表現なら予測できるけど、それを星消えるなって表現する意外性。

 

11. 夕凪

この曲、アルバムを買った当初は「残り香」と似てるなあくらいの認識だったんだけど、今は大好き。NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」で、この曲の歌詞(アレンジだったかも)がなかなか思いつかずに悩む様子が流れていた。

「すべてが例外なく 必ず必ずいつかは終わります」という歌詞が印象的。HEART STATIONに入ってたテイク5と似てると思う。

テイク5では、「今日の気分は最高です 絶望も希望もない空のように透き通っていたい」「始まりも終わりもない 今日という日を素直に生きたい」という歌詞があって、全然気分が最高じゃなさそうなところが好きだった。

どちらかというと、嫌なことがあって大泣きして、少し落ち着いてきたときみたいな印象を受ける。夕凪もテイク5も。

 

12. 嫉妬されるべき人生

この曲は圧がすごい…。こんな軽いコメントで申し訳ないけれど、圧がすごい。

発売前に曲名が発表されたときから、ツイッターで「パクチーの唄」とこの曲は話題になっていた。

「人の期待にこたえるだけの生き方はもうやめる 母の遺影に供える花を変えながら思う あなたに先立たれたらあなたに操を立てる 私が先に死んだら いまわの果てで微笑む」って、メッセージ性しかない歌詞。

 

長くなりましたが、とにかく全人類に買ってほしいアルバムです。以上。