なんの変哲もない日

この田舎の犬は都会で死ぬかもしらん

生命に関するあれこれを考える

小林亜津子『はじめて学ぶ生命倫理―「いのち」は誰が決めるのか』(2011年)を読んだのでその感想を。著者の小林氏は、始めに「教える」教科書ではなく、「いのちの決定」について考える場を提供したいと書いている。その宣言通り、生命倫理の様々な問題について、著者が答えを提示するのではなく、どんな見方がありうるかを紹介し、読者に「あなたはどう思うか」と問いかけている。

はじめて学ぶ生命倫理: 「いのち」は誰が決めるのか (ちくまプリマー新書)

はじめて学ぶ生命倫理: 「いのち」は誰が決めるのか (ちくまプリマー新書)

 

とくに印象的だった話をいくつか書いておく。

・終末期医療における「緩和ケア」で問題になったのが、痛み止めのモルヒネなどに耐性がついて効かなくなってしまう事例。痛み止めが効かない場合、鎮静剤を打って眠らせておくことで、痛みを感じさせない「鎮静」という対応策がある。鎮静が必要な状態のがん患者は全患者の1割程度いるとのこと。それほど少なくない。しかし、仮に死ぬまで眠らせておくとすると、それは患者の命の尊厳や「生命の質」(QOL)を守っていると言えるのか?という問題が生じる。

QOL(生命の質)とSOL(生命の神聖さ)の概念はしばしば対立する。命は大事で尊重されるべきだが、本人が植物状態だったり非常に苦しんでいたりする場合に人工的に延命するのはどうなのか?等々

・コンピテンス…「生命倫理学の陰の主役」。判断能力や意思表示の能力があるかどうか

・デザイナー・ベビー問題。最初の精子バンクは、夫婦のうち夫自身の精子を冷凍保存しておくものだった。しかし匿名で提供された精子を含む精子バンクが登場。精子の提供者の特徴(目の色、髪の色など)が紹介されるのは、最初から「思い通りの理想的な子供を作るため」ではなかった。夫妻が匿名の他人の精子を利用する場合に、生まれた子供は夫の子供として育てるので、両親と似た子供を作るためだった。しかし、実際に利用する親側は欲が出てしまうのか、自分たちになかった才能など、ないものねだりをすることも…。

・プロ・ライフとプロ・チョイス 胎児のいのち優先か、母親の選択権を優先するか。中絶の問題

・「頭がある」と、見る側は人間だととらえやすいのでは。一卵性双生児で結合したまま生まれてきた、ジョディとメアリの話

ローマ・カトリック…受精卵・胎児も人

・受精卵のうち着床するのは約2割。そのため、着床した受精卵からが人であるという考え方もある。

文章は非常に読みやすいのだけれど、テーマになっている一つ一つの問題はとても重い。自分の中でも、到底答えが出せそうになく、これからずっと考え続ける必要があると思った。