なんの変哲もない日

この田舎の犬は都会で死ぬかもしらん

前向きになったという話

少しばかり人付き合いが面倒になって、恋人に対しても、どうせわかってもらえないと捨て鉢になっていた。勝手に相手に失望して諦めかけていたけれど、まだ気がかりなことについて話し合ってもいなかった。反省した。最初はしばらく時間をおいて、恋人とは話差ない環境で考えたいと思ったけど、そういう方法をとらなくてもよさそうだ。
ただ、相手の逃げ道を封じる形で怒ったり、逆に自分の中だけで解決して別れを告げたりしなくてよかった。そういう点では成長したと思える。込み入った人間関係の悩みはつい一人で抱えがちだけど、人に相談するとぱっと道が開けることもある。ありきたりな言い方だけどたしかにそう実感した。恋愛じゃなくて他の人間関係でもちょっとしたいざこざがあり、話し合うこと自体におびえていた。もちろん、100%理解しあえる人はいない。全ての人に対しておしみなく対話の努力をしていたらそれだけで消耗する。人に期待しすぎないほうがいいのも事実。でも、(言い方は悪いけど)見切りをつけたり、諦めたりするにはまだ早かった。
友達に「許せることは許すべき、許せないことを許すべきではない」と言われて、はっとした。
恋人はとても優しいけど、時々悪意なく差別的な発言をする。相手にとって差別の問題はあまり日常的なテーマではないけれど、私にとっては身近な話題だ。ただネットサーフィンをしたり、本屋に寄ったりするだけで、自分や自分の家族・友達と似た境遇の人たちが中傷されているのを見かける。女性、母子家庭、性的マイノリティ、障害者……。見たくなければ見なくていいという言葉がある。でも、それを実行するのが難しいほど、差別的や攻撃的な文言はありふれている。
こういう話題について、ハリー・ポッターに出てくるリリーとセブルスのエピソードはとても示唆的だと思う。リリーは、セブルスに「穢れた血」と呼ばれて怒って、セブルスの謝罪も拒絶した。昔読んだときは「気持ちはわかるけど、リリーも頑固すぎない?許してあげたら良かったのに」と思ったけど、今は気持ちが少しわかる。
リリーは、セブルスが「君は他の人とは違うんだ、つい言ってしまって」といった謝罪をするのに対して、「でも、あなたは私と同じような生まれの人を穢れた血って言うじゃない」みたいに突っぱねる。リリーにとっては、自分がひどい言葉を言われたのもあるけど、幼馴染のセブルスが根強い差別感情を持っているのが許せなかったんだろう。それに、セブルスから見ればたった一回の言葉でも、リリーにとって「穢れた血」という言葉は、何百回も言われたうちの一回なんだろう。そりゃうんざりするし、「うっかりなんだから見逃してあげよう」と思うのは難しい。彼らは10代後半だったし、それ以上話し合うことはできなかった。

まあ、それだけ厳格な面を持ったリリーがなんでジェームズ・ポッターと結婚したんだというのは謎だけど。ローリングさんはあんまりお似合いと思ってないカップルでもくっつける(例: ロンハー)からそこに妙な現実味がある。

話がそれた。
ともかく、私は基本的にあまり自信がなく、人の一部分について「直してほしい」と言うのも怖がっていた。これって自分が偏屈で狭量なだけなんじゃ?と思って、言葉をオブラートに包んだ。相手の性格や考え方に合わせて、伝え方を工夫するのは大事。でも、私はオブラートに包みすぎていた。なんなら言いたいことを風呂敷にくるんでいた。これじゃうまく伝わらないし自分ももやもやする。もう一つ、友達に言われて納得したことがある。「(恋人は)差別的な発言をアイデンティティにしている人じゃないだろうから、それを指摘しても人間を変えようとすることにはならない」という話。たしかにそうだと思った。相手を尊重するのと同じくらい、自分を尊重する。無理はしない。少しずつでも心配事は言う。めんどくさがって極端な判断をしない。気をつけよう。

こういうとき、太宰治の「正義と微笑」にある言葉を思い出す。「まじめに努力して行くだけだ。これからは、単純に、正直に行動しよう。知らない事は、知らないと言おう。出来ない事は、出来ないと言おう。思わせ振りを捨てたならば、人生は、意外にも平坦なところらしい。磐の上に、小さい家を築こう」という所。太宰治の小説を名言集みたいに引用するのは抵抗あるけど好きな文。太宰治が、17歳の青年に仮託して、自分の理想を語っている感じがする。多分、本人が言うのは青くさくて照れるから、若者に言わせているのではないかと思う。太宰治の女性一人称の小説にも、同じような意図を感じるときがある。理想は理想にすぎないけど、持ったほうが豊かな気はする。

やたら「努力」という言葉の多い小説だ。

あと、「黄金風景」も好きだ。良い締めくくり方だけど、もし太宰治の身に起こったことが題材だとすると、現実では彼はかなり自己嫌悪に陥ったに違いない。