なんの変哲もない日

この田舎の犬は都会で死ぬかもしらん

イ・ラン(オ・ヨンア訳)『話し足りなかった日』感想

今月はなかなか更新できずにいた。たまたま沢山閲覧していただいた時期があり、逆に更新をためらっていた。べつに気にしなくていいんだけれど、何か有意義なことを書かないといけない気がして。でも今日はようやっと更新。今週のお題「読書の秋」に沿って書いてみる。

韓国のアーティスト、イ・ランのエッセイ『話し足りなかった日』を読んだ。

以前、『悲しくてかっこいい人』のレビューをしたのがなんと2年前。最近だと思っていたのに、時がたつのは早い。

komeuso.hateblo.jp

『悲しくてかっこいい人』を読んだときも思ったけれど、文章が心にすっと入ってくる。感覚的に近い人なのかもしれない。著者は長い間フリーランスで活動していて、今回はそうした不安定な立場での苦しみ、友人の死、フェミニズムセクシュアリティなど幅広くつづられていた。前のエッセイよりもさらに著者が自分自身の痛みや悲しみにまっすぐ向き合っているように読めた。彼女があるコメディアンの影響で「出来事について、面白くユーモラスに語らなければいけない」という前提に疑問を感じた話が載っていたし、心境の変化があったんだろう。また、自身の作品に出てくる人物や社会は不完全で、女性嫌悪や少数者嫌悪が含まれているかもしれない。そうした限界がある上で、どんな話が作れるのかという葛藤も書かれていた。私もたまに趣味でちょっとした小説を書くことがあるけれど、似たような気持ちになる瞬間がある。もちろん、著者のように社会に向けて発表するわけじゃないから、幾分気楽だけど。

かなり深刻な内容の文章が多々あったけれど、不思議と暗い気持ちにはならなかった。痛みや苦しみ、本当にこれでいいのかという違和感や悩みを持ち続けようと思い直せる本だった。自分が苦しんでいるのを認めるのはしんどいけど、時には必要なことだなって。自分の痛みを気遣えたら、人の痛みにもより配慮できそうだし。なんとなく、「贈る言葉」の歌詞みたいになってしまったけど。とにかく私にとって、手元に置いておきたい本になった。紙媒体で買ってよかった。