なんの変哲もない日

この田舎の犬は都会で死ぬかもしらん

映画『糸』感想

ネタバレあります。この映画が好きな人やまだ見ていない人にはおすすめできない感想。


映画『糸』予告【8月21日(金)公開】

平成元年に生まれたれんとあおいは中学生のときに恋に落ち、様々な試練を経て別々に暮らしていたが、令和が始まる瞬間に再会する。運命の赤い糸ってあるんだね〜という話。

この映画の白眉は菅田将暉と言っていい。演技が本当に素晴らしく、若干くさいセリフでもきちんと感情がこもってきこえる。それと、脇役の二階堂ふみも友情出演ながら印象深い。また、この映画は「泣ける」展開が満載で、たしかに「れん君とあおいちゃん幸せになれてよかったね」という気持ちになる。私も泣いた。

しかしそれと同時に、この映画は私の中で最初から最後までイライラさせられる映画だった。台詞と演出がクサいのはさておき、とにかく「国や地方の社会福祉社会保障セーフティネットがまともに機能していないのを個人の善意や愛で補っている」点が一貫していて、やりきれない気持ちになる。

とくに小松菜奈演じるあおいちゃんは、養父から虐待を受ける環境から逃げて東京に引っ越す。いかにも悪そうな養父が散らかった部屋であおいを殴り、部屋の隅で水商売風の派手な母親が興味なさそうにマスカラを塗る……というステレオタイプゴテゴテのシーン。このシーンが一番嫌いかもしれない。あおいは年をごまかして働き始めたキャバクラで若社長に見初められて大学に通わせてもらうが、当然のように恋愛関係もセット。奨学金などという概念はこの世界にはない。そして母親の生活保護の通知を受けて母親の元を尋ねるも、彼女は「最後は肝臓をぼろぼろにして」死んでしまったとわかる。全く公的な保障に救われていない。あおいちゃんは小松菜奈であり、周りに菅田将暉斎藤工がいたからたまたま助かっただけで、同じ境遇にある多くの人はこの世界では助からないだろう。この映画、他の女の子も散々な目に遭っている。

社会派のテーマをまるで扱っていないのに、「震災がトラウマで精神的に少しおかしくなってしまった女の子」を少しだけ登場させるのもどうかと思う。二階堂ふみの演技がとても良いだけに、彼女のことが掘り下げられなかったのは残念。

この映画の最後に「子ども食堂」の話が出てくるのもなんとも象徴的。自己責任論が蔓延し公的なサービスはきちんと機能していないので、民間の善意や人々の絆に頼るほかないのが平成の時代です、という映画だったのか。